冬の下北沢
東京にいる。
僕は東京育ちの神奈川県人だと自分のことを思っている。
僕は人生のほとんどを荻窪という街で過ごして、大学に入ってからつくばに引っ越した。
けど、少しだけ違う街に住んでいたことがある。
下北沢
家の都合で、高校生の時、一年だけ住んでいた。
正確にはその一駅隣の新代田駅近くのボロアパートだけれど。
好きなアーティストのライブが昨日あったので、行ってきた。6年ぶりくらい。
ライブの前後、フラフラと歩いてみた。
知っている道。知っている街。けど、自分が馴染まなかった街。
荻窪も馴染んだかと言われればそんなことはないけれど、でも下北沢は本当に馴染まなかった。
別に肌が合わなかったわけでもなく、楽しかったわけでもなく。
なんだか他人の夢を見ている感覚というか。
そういう感じでただただフラフラ歩いた。
駅前は工事していて、少し変わっていた。けれどほとんど変わっていなかった。
学校帰りに寄ったピーコックの本屋、親と食べに行った王将、一回も行かなかったけど大きな本多劇場。
他にも古着屋とか、雑貨屋とかパン屋とか。色々あった。
今思うと、下北沢は当時の僕にとってはまだ早すぎた。
服を選ぶ楽しみも、食べる楽しみも、音楽や劇を楽しむ金も感情もなかった。
今住んだら絶対楽しいだろうな。
けど、
それでも、いろいろなことを思い出した。
井の頭線の寒いホームで縮こまっていたこと
ピーコックで親と惣菜を買いに行ったこと
そうだった。秋から春にかけてしか住んでいなかったから、夏の思い出がないんだ。
けど、だから冬が僕にとっての下北沢の全てだ。
次、あの街に行くのはいつなんだろうか。
そんなことを、ふと思う。